世界のマスタード ドイツ、イギリス、アメリカ、カナダ

一般にマスタードは、マスタード種子をすり潰し、水、塩、酢やワインヴィネガーを加えてつくります。このマスタードは中世欧州で原型がつくられましたが、現在その生産は世界中に広まっています。今回特に興味深い4か国のマスタードを取り上げます。各国の料理、食文化と大きく関わっています。

アメリカ料理、ハインツ社のイエローマスタード

写真:アメリカ、ハインツ HEINZ社のイエロー・マスタード

ドイツのマスタード

 ドイツはフランスとマスタードの生産・消費量で欧州一を争っています。ビールの国では、ソーセージにマスタードは欠かせません。ドイツ各地でマスタードが造られていますが、有名なマスタードは次の2つです。

デュッセルドルフ・マスタード Dusseldorf mustard

Lowensenf社のデュッセルドルフ・マスタード、ドイツ料理には欠かせない

画像引用:WIKIPEDIA

 写真:レーヴェンゼンフ Löwensenf社のデュッセルドルフ・マスタード

 デュッセルフドルフはドイツ西部の都市で、オランダまで目と鼻の先という位置です。この地でも古くからマスタードが生産されています。今のデュッセルドルフ・マスタードはブラウンとホワイトのマスタード種子を完全に潰した辛口マスタード。ディジョンのマスタードに似ていますが、ディジョンのマスタードよりも辛味を強く感じます。

 有名なのはABB(Adam Bernhard Bergrath)社のデュッセルドルフ・マスタード。1726年創業で、フィンセント・ファン・ゴッホに愛され、1884年の彼の絵「瓶と陶器のある静物」にはABB社のマスタードが描かれています。現在はドイツ最大のマスタード会社「レーヴェンゼンフ」がABB社が所有。ゴッホの絵と同じ灰色の陶器を使用したマスタードを販売しています。

ドイツ、ABB(Adam Bernhard Bergrath)社のデュッセルドルフマスタードのセラミックの瓶
画像引用:WIKIPEDIA

バイエルン・マスタード Bavarian Mustard

 バイエルンはオーストリアと接するドイツ南部の地域名です。ミュンヘンが中心都市。ブラウンとホワイトのマスタード種子を使用する点はデュッセルドルフ・マスタードと同じですが、バイエルン・マスタードは糖分をしっかり加えた甘い粒マスタードです。1854年ミュンヘンのマスタード製造業者ヨハン・コンラート・デヴレイによってつくられ、現在のバイエルン・マスタードのスタンダードとなりました。その後、この甘いマスタードは世界中に広まっています。地元ミュンヘンでは、名物の白ソーセージ、ヴァイスヴルスト (独) Weißwurst (英) Weisswurstと、この甘いマスタードをあわせるのが定番です。

ドイツ料理で重要な Händlmayer社のバイエルン・マスタード Bavarian Mustard と白い仔牛のソーセージ、ヴァイスヴルストWeisswurst、ドイツのパン
ヴァイスヴルストとバイエルン・マスタードの一品 画像引用:Händlmayer

このバイエルンマスタードは、甘さが特徴です。マスタード一般の辛味が殆ど感じられません。外観は普通のマスタードよりも茶色がかっていて、とろみがありますが、何よりこの甘さ。メーカーや商品によりますが、低糖度ジャムに近い糖分のものもあります。写真にある大手メーカー、ヘンドルマイヤー(ヘンデルマイヤー Handlmaier)のクラシックなバイエルンマスタードは、38.2g/100mlの糖分となっています。辛味がないので、ブラインドで試食したら、マスタードと答えられないでしょう。ジャムのかわりにパンに塗って普通に食べることもできます。

イギリスのマスタード

イギリス料理で重要な コルマンズ Colman’s 社のマスタード

 イギリスでマスタードといえば、黄色いパーケージのコルマンズColman’s社のものです。ブラウンとホワイト・マスタード種子を完全に潰したマスタードですが、ターメリック(ウコン)が加えられているので、独特の黄色い色合いになります。伝統的にワイン生産国でなかったイギリスらしく、ワインヴィネガーを加えていません。日本の和がらしに近い味わいを感じます。コルマンズ社は粉マスタードも販売しています。

 コルマンズ社は1814年にジェレミア・コールマンによって設立。1866年にはヴィクトリア女王より王室御用達となっています。1995年には英蘭系のユニリーバの傘下となりました。1999年にユニリーバはディジョン・マスタード最大手アモラ & マイユ AMORA & MAILLEを傘下に入れ、英仏のトップ・マスタード・ブランドを所有しています。

 スタンダードなコルマンズのマスタードの中身は、水、粉マスタード、砂糖、塩、小麦粉、ターメリック、クエン酸、安定剤です。

アメリカのマスタード

アメリカ料理・フレンチス French's のイエロー・マスタード

 アメリカのホットドッグには黄色いマスタードが欠かせませんね。アメリカのマスタードは、イギリスのマスタード同様ターメリック(ウコン)を使用しているので、黄色が鮮やか。原料がホワイト・マスタード種子だけなので、辛みは強くありません。

 沢山のマスタード・ブランドがアメリカにはありますが、最大手はフレンチスFrench’sです。French’sは「フランスの」という意味ではなく、アメリカ人創業者ジョルジュ・フレンチとフランシス・フレンチの苗字から来ています。1904年ニューヨーク創業ですが、1926年から2017年までイギリス資本の会社でした。2017年からはアメリカの大手調味料会社マコーミック・グループの傘下。スタンダードなフレンチスのマスタードの原材料は、ワインヴィネガー、水、マスタード種子、塩、ターメリック、パプリカ、スパイス、自然香料、ガーリックパウダーです。

マスタードを使用したホットドッグ

カナダのマスタード

 カナダには特産のメープル・シロップを加えたマスタードがあります。特にケベック州の「燻製香料入りメープルシロップ・マスタード Moutarde à l’érable fumée」は、「ベースボール・マスタードMoutarde Baseball」 の名称で知られています。このマスタードの中身は、水、メープルシロップ、ヴィネガー、マスタード種子、砂糖、塩、ターメリック(ウコン)、パプリカ、メープルの天然香料、天然燻製香料です。

カナダのメープルシロップをつかったベースボール マスタードMoutarde Baseball
画像引用:Au pied de cochon

 

 日本の和がらし、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカのマスタード、それぞれ個性がある調味料ですが、実は原料のマスタード種子は一部の例外を除いてカナダ産が殆どなのです。遥か昔は、日本もフランスもドイツもイギリスもアメリカも、自国でマスタード種子を栽培していました。第二次大戦後に本格的にマスタード種子の栽培を始めたカナダが、価格競争力と安定した品質で世界を席巻。世界最大級の食用マスタード種子生産国&輸出国となっています。カナダは各国の好みにあった様々な種子のカラシナを栽培し、その種子を輸出しています。「原材料は外国産となったものの、各国の料理・食文化の伝統を引き継いだマスタードが生産&消費される時代」になったといっていいでしょう。

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