フランスは古くから牡蠣(カキ)を生産・消費してきた国です。興味深いことに、牡蠣の法的な産地表示、原産地保護表示は2009年のIGP マレンヌ・オレロン Marennes Oléronが最初です。ワインの原産地保護表示に比べて約80年の遅れがあります。フランスの海沿いどこに行っても「~~産の牡蠣」を見かけるのですが、法整備が始まったのは最近のことです。今回原産地保護表示をつくった2つの産地、マレンヌオレロンとノルマンディを取り上げます。
マレンヌ オレロン Marennes Oléron の牡蠣とは
フランス西部、大西洋岸にあるこのマレンヌオレロンは、古くから牡蠣の産地でしたが、本格的に牡蠣養殖を行うようになったのは19世紀からです。それ以前は塩の産地として知られていました。フランス革命後、他の塩産地との競争に負け、塩田は放棄。牡蠣の養殖にその塩田跡を使うようになったのが19世紀中頃、ナポレオン3世の第二帝政時代です。現在27の村、約3000haのクレールClaireと言われる塩田跡の池と、約3000haのパークParcと言われる海の養殖場を持つ、計6000haの巨大な牡蠣産地となっています。
このマレンヌオレロンが他の牡蠣産地と大きく異なるのは、クレール Claireと言われる粘土に富む塩田跡です。干潮となっても、海水が残り、池のようになります。その水位が低いため、太陽光線が水底まで届き、牡蠣の栄養分となるプランクトンが盛んに生成されます。この独特の環境で、養殖の最後の仕上げが行われるのがポイントです。
マレンヌ オレロンの牡蠣を名乗るにはいくつかの条件を満たす必要があります。牡蠣の養殖には約4年がかかりますが、その最後の仕上げ育成・熟成の数か月をマレンヌ・オレロン内で行い、かつ梱包・出荷まで行う義務があります。但し、それ以前の数年は、ベルギー国境からスペイン国境までのフランス大西洋岩であれば、どこでもかまいません。つまり、マレンヌ オレロン内で産卵から梱包・出荷まで全てを行っても、ノルマンディやブルターニュ等の他の産地で3年育成し、最後短期間の仕上げのみをマレンヌ オレロンで行っても、IGP マレンヌオレロンを名乗ることができます。それだけ最後の仕上げが牡蠣の味わいに大きく影響を与えているとも言えます。
このポイントは「フランス牡蠣の世界 2 主要産地と牡蠣の引越し」をご参考ください。
マレンヌ オレロン牡蠣の種類
現在IGPマレンヌ オレロンの牡蠣は4種類に分けられ出荷されます。当然、外観も香味も異なります。フィーヌとスペシャルの味わいの違いは「フランス牡蠣の世界 1 基礎編」をご覧ください。
フィーヌ ド クレール Fine de Claire
マレンヌ・オレロンの池、クレール Claireで最低14~28日仕上げ熟成 Affinageを行った牡蠣。磯の香りが特徴。牡蠣の身はスリムで、塩味を感じ、切れある味わいです。
4つのカテゴリーの牡蠣の中では、価格は一番安くなります。
フィーヌ ド クレール ヴェール Fine de Claire Verte
所謂「グリーン オイスター Green Oysters」として世界中に知られている牡蠣です。美しい緑色を人工着色と勘違いする人もいるようですが、天然色です。この地の池 Claireに生息するNavicule bleueと言われる緑色珪藻を牡蠣が取り込み、その色素が牡蠣の身に緑色を与えています。上記のフィーヌ ド クレールと仕上げ熟成の期間等は同じ。味わいもよく似ていますが、ワンランク上。出荷は10月~5月限定。1989年、海産物としては初めてラベル ルージュ Label Rougeの認証を取得しました。
スペシャル ド クレール Spéciale de Claire
上記のフィーヌ ド クレールと仕上げ熟成の期間等は同じですが、牡蠣の身はボリュームがあります。肉厚で、食べ応えがある味わいです。牡蠣は加熱すると縮んで小さくなるので、大きめのスペシャル ド クレールを加熱調理することが提案されています。
プス アン クレール Pousse en Claire
マレンヌ オレロンの最高級牡蠣。「牡蠣のロールスロイス」という人もいます。かつてその製法は秘密とされ、特別な顧客用だったとか。価格も4種類の牡蠣の中では一番高いです。
養殖の最後4~8か月間、クレールの池で育成 élevageを行います。その際、牡蠣の個数を低密度に抑えることで、栄養分をしっかり吸収させます。牡蠣のサイズが2倍になるものもあるようです。味わいは濃厚。スペシャル ド クレールよりもさらに厚みがあり、歯ごたえや甘みを感じるものもあります。余韻も長いです。出荷は10月~5月限定。1999年、ラベル ルージュ Label Rougeの認証を取得しました。
マレンヌ オレロン Marennes Oleronの牡蠣はフランスで最も流通量の多い牡蠣の1つです。内外のフランス料理店だけでなく、欧州のスーパーマーケットでも見つけることができます。是非一度お試しください。
情報ソース
Huîtres Marennes Oléron
INAO
「フランス牡蠣の世界」は5ページに分かれています。是非最初からご覧ください。