日本ではフランス料理店に行かないと食する機会が殆どないフォアグラ。美食の国フランスでは普通にどこのスーパーマーケットでも売られている身近な食材の一つです。フランス人の90%がフォアグラを食べます。今回はこのフォアグラに関して、質問形式でまとめました。
Q フォアグラとは何か
A 鴨やガチョウを育てる際に、最後の約2週間、とうもろこしを中心とした餌を強制的に与えます。この強制摂食(ガヴァージュgavage)によって肥大した肝臓をフォアグラと呼びます。仏語でフォアは肝臓、グラは脂肪の意味です。
Q なぜフォアグラが好まれるの?
A 単に脂がのった鳥の肝臓というだけなら興味を持つ人はいないでしょう。独特の柔らかい食感と、濃厚で旨味溢れる味わいが美食の世界で認められています。しばしば、世界三大珍味の一つとされています。
Q フォラグラは鴨だけ?他の鳥は?
A 現在では鴨とガチョウの2種類のフォラグラのみです。世界生産で90%が鴨、フランスでは99%が鴨のフォラグラとなっています。
かつてはフランス産の大部分がガチョウのフォアグラだった時代がありました。1980年頃でもフランス産の4分の1程度はガチョウのフォアグラでしたが、その生産量は大きく減少しました。ガチョウのフォアグラの方が高価であり、味わいの面で評価する専門家も少なくないのですが、最終的な利益が少ないため多くの農家が生産を辞めてしまいました。
詳細は別の記事にまとめましたので、ご参照ください。
Q フォラグラが脂肪肝なら、その鴨の残りの部分はどうするの?
A 胸肉の部分はマグレ Magret 、もも肉の部分はコンフィ Confitとして商品化されるのが一般的です。この2つはフォアグラ共々フランス南西地方の特産物となっています。胸肉のマグレに関しては、次の記事をご参照ください。
アンドレ・ダガンAndré Daguin と鴨のマグレ、マグレ・ド・カナール の記事
Q フォアグラの主要生産国は?
A 世界でフォアグラは年間約24000トン生産されています。その3分の2以上がフランス産で約16000トンを生産しています。フランス、ハンガリー、ブルガリアの3か国で世界生産の90%を超します。
Q フランスでもフォアグラは消費されているの?
A フランスは世界最大のフォアグラ生産国であると同時に、世界最大の消費国です。フランスは生産量と大体同じ量を消費しています。年間の1人当たりの消費量は約220g。フランス人の90%がフォアグラを食べます。フランスの生産量&消費量は過去40年で大きく伸びました。1980年頃は年間約3000トンの生産量でしたが、この40年間で5倍以上になっています。フランスでは伝統的に、クリスマスから新年にかけて集中的に消費されます。
フランスは自国の生産量の約2割を世界に輸出し、大体同じ量をハンガリーやブルガリアから輸入しています。これは高級なフォアグラを世界に輸出する一方、安価な東欧産の安いフォアグラを輸入しているからです。
Q フランスのどこでつくられているの?
A フランスのフォアグラ生産はスペインに近い南西地方に集中しています。ヌーヴェル・アキテーヌ地域圏とオクシタニー地域圏でフランスのフォアグラの4分の3を生産しており、「フォアグラといえばフランス南西地方」というイメージが定着しています。それ以外ではロワール河流域とブルターニュ、アルザスでフォラグラが生産されています。
Q フランスではフォアグラに原産地呼称や認証はある?
A 現在3つの認証があります。
「南西地方の鴨のフォアグラ」(Canard à Foie Gras du Sud-Ouest)で、IGP(「保護された地理的表示」、Indication Géographique Protégéeの略)。2000年より。フランス政府が定めた原産地呼称です。
「フランスのフォアグラ」(Foie gras de France)は業界団体CIFOGによる検査・認証で、フランス政府が支援しています。2019年より。
「鴨のフォアグラのラベル・ルージュ」(Foie Gras de canard Label Rouge)。フランス政府が定めた生産規定の順守が求められます。1989年より。
特にIGPの「南西地方の鴨のフォラグラ」の生産量が多く、現在フランス産の3分の2以上を占めています。このフォアグラは雛が産まれる時から最終商品となるまで全ての工程をフランスで行うことが義務付けられています。
フランスのフォアグラの認証に関してはこちらに詳しくまとめましたので、参照ください。
フランスのフォアグラの認証:IGP、フォアグラ・ド・フランス、ラベル・ルージュ
Q フォアグラはフランス料理で最初に使われたの?
A フォアグラはフランス料理における重要な食材ですが、フランスが最初に生産を始めた国ではありません。古代エジプトや古代ローマで生産・消費されていました。フランスで本格的に食べられるようになったのは17世紀以降です。
Q 鴨のフォアグラ生産の際に取り出される鴨のマグレ/ マグレドカナール Magret de Canard と、普通の鴨の胸肉 / フィレ・ド・カナール Filet de Canard はどう違うの?
A 肉の色・形に大きく違いがありませんが、白い脂身の部分に大きな違いがあります。鴨のマグレはより厚みのある脂身になります。味わいの差ですが、鴨のマグレの方が柔らかく、ジューシー。普通の鴨の胸肉の方が硬く引き締まり、咀嚼していくにつれ味わいが出てきます。品質はそれぞれ色々あり、一概にどちらが優れているとは言えません。
Q 鴨のマグレ Magret de Canard、ガチョウのマグレ Magret d’Oie はなぜ昔の料理の本には出ていないの?
A フォアグラは紀元前から存在しますが、フォアグラ生産の際に取り出される鴨のマグレMagret de CanardやがちょうのマグレMagret d’Oieは、昔の料理の本には出てきません。20世紀初頭に書かれたフランス料理のバイブルとも言うべきオーギュスト・エスコフィエ著の大著「フランス料理」にもありません。かつては、胸肉は他の肉と一緒にコンフィやリエットにされていました。それが今の料理方法になり、胸肉がマグレと言われるようになったのは1960年代からで、かつてミシェラン2つ星を取った料理人アンドレ・ダガンAndré Daguinによるところが大きいです。詳細は下記の記事をご参照ください。
アンドレ・ダガンAndré Daguin と鴨のマグレ、マグレ・ド・カナール の記事
Q フォアグラにあわせるワインは?
A フランスでは伝統的に甘口の白ワインとの相性がよいとされてきました。ソーテルヌ等のボルドーの甘口白ワイン、ジュランソン、パシュラン・デュ・ヴィック・ビル、モンバジャック等の南西地方の甘口ワイン、アルザスのヴァンダンジュ・タルディブやロワールのコトーデュレイヨンが代表的です。酸味のある辛口白ワインはフォアグラの柔らかい食感と相性が悪いというのがその理由です。しかし、この組み合わせはかねてより問題が指摘されてきました。フォアグラは日常に食べるものではなく特別な記念日に大勢の人と食べるのが普通で、通常前菜の一部として出てきます。ここで甘口の白ワインを飲むと、この後に出てくる料理やワインの味わいを崩すことが多いのです。食事の流れを切ってしまいがちなのです。
そこで、良作年の熟成したムルソーや、酸度の低いコンドリュー、イグレック等のソーテルヌのシャトーがつくるやや辛口のワイン、残糖を若干残したアルザス・グランクリュ等が使われるようになりました。これらのワインですと確かに食事の流れを壊しません。
最近は、極辛口のシャブリ・グラン・クリュとフォアグラという組み合わせがシャブリの生産者委員会から提案されています。かつては考えられなかった組み合わせですが、「フォアグラの調理方法・そのものが以前に比べて軽くなってきている」「地球温暖化で白ワインの酸度が低くなってきており、以前に比べると接点がある」「シャブリの酸味とフォアグラの脂との正反対の組み合わせが新たな調和を生む」、色々な意見が出されていますが、賛否両論なのは言うまでもありません。
如何でしょうか。ワイン屋さんやレストランのソムリエとご相談してみてください。伝統的な合わせ方から新しいものまで色々ありますので、お好みのスタイルを探してみてはと思います。
フォアグラと相性のよいソーテルヌの現在を綴りました
フランスで最もポピュラーな季節菓子、ガレットデロワの世界
フランスの春を告げる食材
サンネクテール、カンタル、サレールのフェルミエ、チーズ工房を訪問
アラン・デュカス のハートを掴んだ ファイアンスリー・ジョルジュ と ヌヴェール 陶器博物館