サンネクテール、カンタル、サレール のフェルミエ、チーズ工房訪問

オーヴェルニュ サンネクテールの高原の風景

サン・ネクテール、カンタル、サレールというチーズをご存知でしょうか。フランス中央部の山岳地帯、オーヴェルニュ地方でつくられる「山のチーズ」。フランスのどこでも見つけることができるポピュラーなチーズです。今回この3つのチーズをつくっている工房を訪問しました。もちろん、牛を育てるところからチーズ作りまで行っている農家 フェルミエです。

FERME de l’OISEAU
住所、MONTALEIX 63790 CHAMBON SUR LAC 

フランス料理の重要ポイント、農家製 のチーズ サンネクテール・フェルミエ
農家製 の サンネクテール・フェルミエ Saint-Nectaire fermier

まず、3つのチーズの特徴を簡単にご説明します。サンネクテール Saint-Nectaire は、牛乳製のセミハードタイプで、直径約20㎝、高さ約5㎝、重さ約1.7㎏。近年は600gのミニサイズもあります。最低28日の熟成が義務。オーヴェルニュ地方の標高800~1500mの69村がこのチーズを生産できます。1955年AOC、1996年にAOPの原産地呼称取得。農家製のサンネクテール フェルミエ Saint-Nectaire fermierと、工場製の サンネクテール レティエ Saint-Nectaire laitier の2種類があり、両者は製造に関する法規が異なります。農家製はその農家で絞る生乳のみが使用を許され、工場製は殺菌乳から大量生産されます。工場製が安いのは言うまでもありませんが、味わいの深さが全く異なります。AOPのチーズとしてはフランスでもトップ5に入る生産量を誇ります。
フランスの太陽王ルイ14世に地元のアンリ・ド・ラ・フェルテ-サンネクテール元帥 Henri de La Ferté-Senneterreがこのチーズを献上し、好評を博した歴史が有名です。また、故ヴァレリー・ジスカールデスタン大統領が好んだことでも知られています。

フランス料理で重要な、カンタルとサレールの大型セミハードチーズ
左がサレール、右がカンタル チーズ1個約40㎏で、そのサイズに圧倒される

カンタル Cantal は大型のセミハードチーズ。円筒形。サンネクテールよりもかなり大きいです。牛乳製で、直径約40㎝、高さ約40㎝、重さ約40㎏。表皮はかなり固めです。熟成期間により、Cantal jeune(30~60日)、Cantal entre deux (90~210日)、Cantal vieux(240日以上)に分けられます。1956年AOC、1996年AOP取得。古代ローマ時代の大プリニウスが書いた「博物学」に今のカンタル地方のチーズの記載があり、この地のチーズが古くから高い評価を得ていたことがわかります。

サレール Salers はカンタルとほぼ同じ形状のチーズですが、牛乳はサレール種の牛からのみ(カンタルは規定がありません)。チーズ生産は4月15日から11月15日までと限定されています(カンタルは1年中生産可能)。熟成期間は3か月以上。1961年AOC、2003年AOP取得。生産量はカンタルより遥かに少なく、より高価。サレールがカンタル地方の伝統的なチーズ製法であると言われています。

今回の農家はタイヤで有名なミシュランの本拠地、クレルモン フェランから1時間程の高原にあります。ここはチーズ工房が無料で見学可能。毎朝9時頃と18時頃の2回、職人達がチーズをつくる工程をガラス越しに見ることができます。チーズの味も上品で、直売価格も適正でしょう。

サンネクテールとカンタルのチーズ工程一覧

壁に製造工程の図がありました。サイズも味わいも異なるサンネクテールとカンタルですが、同じ工房内でつくられます。最初の工程はどちらも一緒ですね。ご興味のある方のために拡大可能になっています。

チーズ サンネクテールの製造風景

毎日6時30分と16時30分、絞りたての生乳にプレジュレPrésureと言われる酵素を入れ、生乳を凝固させます。この工程をカイヤージュCaillageと言います。サンネクテールでもカンタル&サレールでも同じ作業です。

チーズ サン・ネクテールの製造風景

酵素反応によりタンパク質や脂肪分が凝固し、固形分カイエCailléと液体分の乳清(ラクトセラム Lactosérum、プティレ petit-laitとフランスでは呼ぶ)に分かれます。その固形分カイエを成形・脱水してチーズをつくります。上はサンネクテール製造の様子。中央奥で、丸いプラスチックの容器にカイエを入れ、上からプレスして成形します。それを布で包み、金属の留め金で周りを覆い、150gの塩を練りこみ、左端の機械でさらにプレスして水分を絞っていきます。6日間この工房に置いてチーズをつくり、その後6週間は地元の地下カーブで熟成させます。大体2か月で出荷開始だそうです。

カンタル、チーズの製造の部屋

隣にカンタル&サレール製造の部屋があります。写真上部にある大きな金属製の容器を使用し、48時間かけてプレスしていきます。この工房では6~8か月熟成させて出荷させます。因みにカンタルとサレールの香味の差は小さく、ブラインドで試食すると分からないことが多いと素直に認めていました。

La Brune des Alpes 種の仔牛

ここは約90頭の牛を飼育しています。様々な種類の牛がいるようですが、主にLa Brune des Alpesと言われるスイス原産の牛を飼っています。写真は仔牛。牛を飼育する建物の中も見学可能です。

牧場内のホエー豚

この農家では、牛だけでなく豚、羊、鶏等も飼育しています。チーズ製造の際に出る乳清 ラクトセラムを豚に飼料として与えています。北海道やイタリアのホエー豚と一緒ですね。

乳清ラクトセラム、プティレを回収に来たトラック

どこかの工場のトラックが、乳清 ラクトセラムの回収に来ていました。製造中に大量にできるので、全てを家畜の飼料用にはできないそうです。工場では何に使うのでしょうか。

フェルミエ・オワゾーの建物

かつて2000軒の農家 フェルミエがサン・ネクテールをつくっていたといいます。今は200軒ほど。世界共通の問題ですが、週末はもちろん年末年始の休みも取れない乳製品製造業界は、人気のある職業ではありません。一部の情熱 パッションある人達のみが残っています。この様なフェルミエがこれからも存続して欲しいものです。チーズやバター等乳製品のないフランス料理はありえません。高級フレンチレストランだけでなく、家庭料理の場でもそれは同じです。


サンネクテール村の道路標識

フェルミエ訪問のあとにサンネクテールの村を訪ねました。この村がチーズに「サンネクテール」の名前を与えたことは言うまでもありません。かつてVichyのように湯治で栄えた村でしたが、湯治客の減少により2001年頃にはその役割を近隣のモン ドルMont-Doreに譲っています。

サンネクテールの観光案内所、かつて湯治客が多く来たので、独特の建物になっている

写真はサンネクテール村の観光案内所 Office de Tourisme。かつてはここに湯治客を迎えており、独特の建物が山間の渓谷に残っています。今でも観光案内所の建物内で、湧き出る水を見ることができます。

サンネクテール村内の綺麗な建物

かつて湯治客を迎えた豪華なホテル群は、現在一般の住宅になっています。

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