フランス フォアグラ認証の歴史 南西地方の鴨のフォアグラ、フォアグラ・ド・フランス、ラベル・ルージュ

 1989年ベルリンの壁が崩壊し、東欧から様々な商品が西ヨーロッパに沢山入ってきました。東欧のフォアグラもその一つ。ハンガリーやブルガリアから安いフォアグラがフランスに入り、フランスのフォアグラ生産者達は大きな打撃を受けました。この時代、単に価格競争が問題だっただけでなく、フランス産のフォアグラに原産地呼称の認証がなかったことが大問題でした。「東欧から安いフォアグラを輸入してフランス産として販売することが可能で、100%フランス産のフォアグラとエチケット上で見分けがつかない」という状況だったのです。

1)卵から最終工程まで全ての作業をフランスで行う。 
2)外国で産まれた幼鳥を輸送し、ガバージュ(強制給仕)以降をフランスで行う
3)外国でフォアグラまで生産し、最後の包装だけフランスで行う
4)全て外国で行い、包装された商品をフランスに輸入 

 最後に商品が包装された場所が「原産国」となりますから、1)~3)がフランス産と表示可能です。流通しているフォアグラが上記のどれなのか? フランスの消費者には明瞭ではなかったのです。これでは1) をやっている生産者はたまったものではありません。

フランス料理の一品、牛肉とフォアグラのトルヌード

▼ 南西地方の鴨のフォラグラ Canard à Foie Gras du Sud-Ouest 

 この状況を打開すべく、フランスの生産者達の強い働きかけで、「南西地方の鴨のフォラグラ」(Canard à Foie Gras du Sud-Ouest)が、IGP(「保護された地理的表示」Indication Géographique Protégéeの略)のカテゴリーでつくられました。2000年のことです。これはフランス政府が定めた原産地呼称で、上記の1) のみです。

フランスのフォアグラ認証、カナール・ア・フォアグラ・デュ・スデゥ・ウェスト
画像引用:Canardlandes.com

この認証は内部で6つの生産エリアにわかれていて、そちらの名称でも商品化が可能になっています。

Canard à foie gras de Chalosse  「シャロスの鴨のフォアグラ」
Canard à foie gras de Gascogne 「ガスコーニュの鴨のフォアグラ」
Canard à foie gras du Gers    「ジェルの鴨のフォアグラ」
Canard à foie gras des Landes  「ランドの鴨のフォアグラ」
Canard à foie gras du Périgord   「ペリゴールの鴨のフォアグラ」
Canard à foie gras du Quercy    「ケルシーの鴨のフォアグラ」

それぞれが独立したマークを持ち、IGPの青いマークよりも目立つことが多いと思います。

フランスのフォアグラ認証、カナール・ア・フォアグラ・デュ・スデゥ・ウェストの認証6種類
画像引用:Ladepeche.fr

 このIGPは2000年につくられて以来、生産量が伸びています。2019年にはフランスのフォアグラ生産全体の3分の2以上を占めるまでとなりました。フランス国内では完全なフランス産フォアグラへの拘りが強く、大きな成功を納めています。

▼ フォアグラ・ド・フランス Foie gras de France

  上記のIGPはスペインに近いフランスの南西地方限定でした。当然フランスの他のフォアグラ産地はどうするんだ?となります。さらに、このIGPは鴨のフォアグラだけで、ガチョウのフォアグラは含まれませんでした。そこで2019年に新しく「フランスのフォアグラ」(Foie gras de France)という認証ができました。これも卵から最終工程まで一貫してフランスで生産されているものに限定され、冒頭の1)にあたります。CIFOGというフランスのフォアグラの業界団体が定めた検査・認証で、フランス政府がこれを支援しています。フォアグラを取った後の胸肉のMagretや、コンフィの認証も同時につくられました。もちろん、これらも100%フランス産です。

フォアグラドフランスの認証3種類
画像引用:CIFOG

 上記2つの認証なしでフランス内で流通しているフォアグラは冒頭の2)か3)と考えていい時代になりつつあります。

▼ フォアグラ ラベル・ルージュ LABEL ROUGE

フランスの認証、ラベルルージュ
画像引用:Ministere de l’agriculture et de l’alimentation

 この認証システムは1960年代に始まりました。「安価で低品質な大量生産品ではなく、一定の生産基準を満たした高品質な商品」に対してフランス政府が認証を与えるものです。対象は肉、魚介類、野菜、パン&小麦粉、乳製品、はちみつ等の食品に広がっていきました。フランスのスーパーでだけでなく、専門店でも見かけることが多く、品質や味に拘りのある人達の支持があります。赤い認証が目立つことや、数十年の歴史があり、IGPよりも消費者の認知度が高い印象を受けます。鴨のフォアグラにも1989年より始まったラベル・ルージュがあり、使用可能な餌や、飼育期間等で厳しい基準が課されています。品質の高いフォアグラにはこのラベル・ルージュがついていることが少なくありません。

 このラベルルージュに関しては、フランスでもあまり知られていないポイントがあります。この認証はフランス政府が定めたものですが、あくまで「生産方法の基準」であって、「原産地の基準」ではないということです。「外国で、フランス政府の定めた生産基準に沿ってつくられた商品を生産してフランスに運び、ラベル・ルージュの認証をつけて販売してよい。」ということです。原産地がフランスである義務はないのです。大多数のフランス人はフランス政府が定めた認証なので、中身はフランス産だと思って購入しています。輸出市場においても同様でしょう。そのため、上記のIGPやFoie gras de France のような原産地呼称とラベル・ルージュを組み合わされて使用されることがあります。

Foie gras Canard Sud-Ouest / Label Rouge 
「南西地方の鴨のフォラグラ」「ラベル・ルージュ」

 2つの認証が同時に並んでいるフォアグラを容易に見つけることができます。「南西地方の鴨のフォラグラ」は原産地と一般的な生産の基準、「ラベル・ルージュ」は高品質な生産の基準をそれぞれ保証していることになります。

 ここまでこだわったフォアグラで品質的に外れることは稀。濃厚なフォアグラが多い、というのが筆者の個人的な経験です。世界中の高級なフランス料理を出すレストランで見かけます。

フォアグラと相性のよいソーテルヌの現在を綴りました

error: Content is protected !!
タイトルとURLをコピーしました