詳解 フランス牡蠣の世界 5 ノルマンディー牡蠣 Huîtres de Normandie

フランス北部、ドーバー海峡を挟んでイギリスに近いノルマンディの沿岸部は、魚貝類に恵まれ、しかもパリに最も近い海岸線。天然物の魚貝等を大都市パリに運ぶのは自然な流れでしょう。牡蠣採集も古くから行われ、サン ヴァスト ラ ウーグには19世紀後半から養殖の歴史がありますが、ノルマンディの牡蠣(カキ)養殖が本格化するようになったのは、1960年代末から1970年代と比較的最近です。「ノルマンディはフランス牡蠣の新興産地」という人もいます。因みに、ノルマンディの有名な特産物にムール貝がありますが、これも本格的に養殖するようになったのは1970年代からです。

ノルマンディのカキ牡蠣のパニエと皿、レモン、白ワインのボトルと白ワインが注がれたグラス、室外の風景
画像引用:huitres-normandie.com

現在、ノルマンディの牡蠣生産は、マンシュ Manche、カルヴァドス Calvados、ウレ Eure、セーヌ・マリティム Seine-Maritimeの4県にまたがる600kmの海岸沿い、約1000haで行われています。ノルマンディの西側、コタンタン半島にあるマンシュManche県での牡蠣生産量が大きいです。マンシュ県には世界的に有名で、ユネスコ世界遺産にもなっているモンサンミシェル修道院跡があります

フランス牡蠣生産は、穏やかな内海や海添いの塩田跡で行われることが多いのですが、ノルマンディは波のある外海で養殖が行われていますノルマンディは欧州で最も潮の干満の差の激しい場所として知られており、この潮汐が牡蠣の味わいに影響を与えていることは間違いありません。

ノルマンディ地方の有名牡蠣産地

600kmに渡る海岸線を、西から東に、5つのエリアに分類します。

フランス、ノルマンディの牡蠣かきと木製のパニエ、Cotentin コタンタンのグランクリュと書かれている
画像引用:huitres-normandie.com

コタンタン半島西側 Côte Ouest du Cotentin

有名なモンサンミッシェルの傍。ノルマンディ牡蠣の主力産地です。

コタンタン半島東側 Côte Est du Cotentin

半島東側にあるサン ヴァスト ラ ウーグ Saint Vaast la Hougueは、ノルマンディで最も古くから牡蠣養殖をしていた場所。サン ヴァスト ラ ウーグの港町の沖合にヴォーバンによる要塞があり、2008年ユネスコ世界遺産に登録されました。

ヴェイ湾 Baie des Veys

イジニー Huître d’Isignyユタビーチ Huître d’Utah Beachが有名です。イジニーは複数の川が海に流れ、プランクトン豊富。リッチな味わいの牡蠣で知られています。

コート ド ナクル Côte de Nacre

1990年代に始まった新しい産地。まだ生産量は少ないです。

ヴール レ ローズ Veules les-Roses

2000年代に始まったセーヌ・マリティム Seine-Maritime県最初の牡蠣産地。ノルマンディの牡蠣産地では一番東。有名なエトルタの東に位置します。まだ、生産量は少ないです。

IGP ノルマンディ牡蠣 の成立と今後

フランス、ノルマンディのカキ牡蠣養殖の様子。4人が働いていて、手作業の多い仕事だ。
画像引用:Le Parisien

現在、「ノルマンディ地方はフランス最大の牡蠣生産地」と言われています。しかし、統計数字を見ると、シャラント・マリティム地方の4分の1程度の消費者向け出荷量のみです。この理由は「フランス牡蠣の世界 2 主要産地と牡蠣の引越し」で詳述しました。ノルマンディ牡蠣のかなりの量がシャラントマリティムやアルカション等へ運ばれ、数週間から数か月の仕上げ熟成を行い、その地の名前で出荷されていることが大きいのです。

この現状に不満を持っていたノルマンディ地方の牡蠣生産者達は、2000年代に入って公的機関によるIGP 原産地保護表示の申請を行います。2022年7月にINAOから正式な返答があり、2023~2024年にはIGP Huîtres de Normandie ノルマンディ牡蠣 が発効する予定となっています。このIGPノルマンディ牡蠣は、産卵~稚貝の間は産地規定がありませんが、その後の全行程はノルマンディで行うことが義務つけられています。つまり、牡蠣養殖の大部分の工程がノルマンディで行われます(ノルマンディ内での引越しは可能です)。この様な公式規定はフランスで初めてとなります。

2022年7月、地元ノルマンディの下院議員エルベ・モランHerve Morinは、新聞でこのように述べています。

「ノルマンディで3年間育成して、最後マレンヌ オレロンで3週間仕上げ熟成を行ったら、マレンヌ オレロン産の牡蠣というIGPの印をつけて出荷される。これは泥棒行為だよ!と。
出典:ouest-france

これまで微妙な立ち位置だったノルマンディの牡蠣生産ですが、今回のIGP発効によって法的に整備された存在になります。一般への認知度が上がり、社会的な地位が向上すると期待されています。フランス料理の世界に、新しい1ページが加わります。

カキ牡蠣を使った温製のフランス料理、サラダ、ロケットを添えている
画像引用:huitres-normandie.com

情報ソース
Normandie.chambres-agriculture
huitres-normandie.com
ouest-france
Le Parisien
INAO

「フランス牡蠣の世界」は5ページに分かれています。是非最初からご覧ください。

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