最古のシャンパーニュ・メゾンとして知られるリュイナール (ルイナール )Ruinart 1926年のシャンパーニュ18本が、フランス、リヨン郊外 Collonges-au-Mont-d’Or にある星付きレストラン、ポール・ボキューズ Paul Bocuse の地下カーブで見つかった。その一部が2023年2月に抜栓。フランス各誌で話題になっており、抜栓した際の映像を見ることが出来る。
L’UNIONの記事。Ruinart 1926 抜栓時の映像あり
France-info Cultureの記事 Ruinart 1926を試飲している映像あり
故ポール・ボキューズ(1926 – 2018)は、フランスで最も有名な料理人。半世紀以上ミシェラン3つ星を維持し、「フランス料理界の法王」と呼ばれた。彼は数世代続く料理人の家系に生まれ、フランス各地で修業の後、1958年親元のレストランに戻り、すぐに1つ星を獲得した。このレストラン・ポール・ボキューズは現在も営業し、フランス料理界の頂点に「君臨」し続けている。
2021年11月、 棚卸しを行った新任のシェフ・ソムリエ Maxime Valeryは、埃に埋もれた18本のシャンパーニュを発見した。それはメゾン・リュイナールの1926年ミレジムだった。当初彼はエチケットに書かれたそのミレジムを信じることができなかった。約100年前のシャンパーニュがレストランの地下カーブに残っているとは思えなかったからだ。但し、1926年はポール・ボキューズの生年。レストランにとっては特別な年だ。
ポール・ボキューズはワイン・コレクターであり、ボルドーを中心とした高級ワインをプライベートに買い続けていた。また、自分の生年1926年ミレジムのワインを収集していたという。それらのワインはレストラン隣の個人カーブで熟成され、2018年彼が亡くなった際、膨大なプライベート・コレクションが残された。2019年、ポール・ボキューズ財団設立のために一部は競売にかけられたが、まだ大部分は残されている。今回の18本は、そのプライベート・コレクションからレストランに移され、忘れさられたボトルと推察されている。「メゾン・リュイナールが、ポール・ボキューズの40歳か50歳の誕生日に少なくとも24本をプレゼントし、18本が残されたのでは。」とレストラン・ポール・ボキューズ現社長Vincent Le Rouxは考えているようだ。このシャンパーニュがどこから来たのか? ポール・ボキューズが鬼籍に入った今では、ミステリーの世界だ。
1729年創業のリュイナールは、シャンパーニュ最古のメゾンとされている。しかし、フランスがナチスドイツに占領された第二次大戦時、メゾン・リュイナールの自社カーブのボトルの大半はドイツ軍に接収され、終戦時僅かな本数しか残っていなかった。現在、メゾン・リュイナールは戦前のボトルを自社カーブに殆ど所有しておらず、接収を逃れた戦前のボトルがシャンパーニュ外で見つかることがあるようだ。
レストラン・ポール・ボキューズはメゾン・リュイナールに今回の「発見」を伝え、18本のうち3本をレストランに残し、残りをメゾン・リュイナールに送った。当然のことだが、1926年のこのシャンパーニュはリュイナールの地下カーブで最も古いミレジムとなった。今回抜栓されたシャンパーニュは酸化しきっておらず、熟した果実、アブリコット、レモンやオレンジのコンフィの香りがあり、未だフレッシュさを残し、傑出したワインであったとコメントされている。
試飲の際に一部が分析に出された。アルコール度数は11.5%とシャンパーニュにしては高めで、総酸度も比較的高かった。残糖は17g/lで、エチケットに書かれている「エクストラ ドライ Extra-Dry」の残糖規定(Extra-Sec : 12~17g/l)内。この残糖は試飲の際に十分感じ取れたようだ。
今回発見されたシャンパーニュで驚くべきことは、約100年前のボトルにも関わらず、エチケットがオリジナルのまま完璧に残っていることだろう。このボトルのネックラベルにはBI-CENTENAIRE、エチケット(表ラベル)にもBi-centenaryと書かれている。1929年にメゾン・リュイナール創立200年を祝った記念ボトルだ。そしてエチケットにリュイナールの本拠地ランスRheimsの地名が書かれているが、これは古フランス語表記。現代のフランス語ならhを外し、Reimsと書く。アングロ・サクソンで今でもRheimsと書くことがあるが、少数派。当時はリュイナール家がメゾン・リュイナールを所有・経営していた時代であり、古い伝統を重んじたエチケットだろう。
今回のシャンパーニュのエチケットは、英語表記されている点も注目すべきではと思う。写真で読み取れる文字は、「Champagne、Ruinart Père et fils、Established 1729、Bi-centenary、Rheims、France、carte anglaise、vintage 1926、Produce of France、Extra-Dry」となっており、英語圏か外国に輸出されたシャンパーニュがフランスに逆輸入された可能性もあるのではないか。この時代のメゾン・リュイナールのシャンパーニュは、仏語表記されたエチケットも見かけるからだ。
写真や映像で今回抜栓されたシャンパーニュの色をみることが出来るが、ロゼ・シャンパーニュのような赤みがかった色合いになっている。2010年バルト海で沈没船から引き揚げられた1840年頃のシャンパーニュは、薄い黄金色。古いシャンパーニュの色は様々だ。
ルイナール 1926年のワイヤーキャップとコルク。かなり新しい印象を受ける。
情報ソース: Le progres, Figaro, L’union, France-info, Terre de Vins, Le Parisien
追記 レストラン・ポール ボキューズと洪水
Collonges-au-Mont-d’Or にあるレストラン・ポール ボキューズはソーヌ河に近く、度々洪水・浸水している。当然地下カーブにも水が入ってきており、古いワインの在庫確認が難しい理由となっているようだ。
洪水時、レストラン前で船に乗る故ポールボキューズ氏 画像引用:Le Progres
過去4回の洪水時の水位がレストランの壁に刻まれている 画像引用:Le journal Saune et Loire
浸水後にレストランの地下カーブを掃除するソムリエ 画像引用:Le Progres
情報ソース JSL , Le progres