オーストラリアを代表するワイナリー、ペンフォールド Penfolds は、前例のない新しい試みを行う。下記のワイン2種の発売を2022年8月から開始。ミレジムはどちらも2019年。
ペンフォールド II (Penfolds II)
品種構成
カベルネ・ソーヴィニヨン種 59% ボルドー・メドックのシャトー・ベルグラーブ産
シラーズ種 29% オーストラリア、ペンフォールドのカリムナ・ヴィンヤード産
メルロー種 12% ボルドー・メドックのシャトー・ベルグラーブ産
このワインは、オーストラリアのペンフォールズを所有するTreasury Wines Estates (TWE)と、ボルドーに多数のワイナリーを持つネゴシアン、ドゥルト Dourtheとのコラボレーション。ドゥルトDourtheが所有する最高シャトー、格付け5級シャトー・ベルグラーブ Chateau Belgraveのワインが使用される。ブレンドや瓶詰めなどの作業はフランスのペンフォールド側が行う。参考価格は340ユーロ(約4万7000円)。旧大陸(フランス)と新大陸(オーストラリア)の高級ワインをブレンドする初めての試みだ。
エフ ダブリュー ティ FWT (French winemaking trail) 585
ペンフォールドが所有するボルドー・オーメドックのクリュ・ブルジョワ・エクセプショネル、シャトー・カンボン・ラ・プルーズのブドウを、ペンフォールド流で醸造・熟成したワイン。つまりフランス ワインだが、オーストラリア スタイルでつくられたワイン。ブドウ品種は、カベルネ・ソーヴィニオン、メルロー、プティ・ヴェルドで、14か月熟成。参考価格は80ユーロ(約1万1000円)。
ペンフォールド Penfolds のフランス進出とドゥルト Dourthe
1844年創業のペンフォールドPenfolds は、オーストラリアを代表するワイナリー。彼らがつくる「グランジ」はオーストラリア最高峰のワインとして知られている。ペンフォールドは近年ボルドーに積極的に進出。2019年、ボルドー・オーメドックのシャトー・カンボン・ラ・プルーズ Château Cambon La Pelouseを買収。このシャトーは14しかないクリュ・ブルジョワ級最高格付け、クリュ・ブルジョワ・エクセプショネルの1つで、約60haを所有する。 2021年、さらに3シャトーを買収。内訳は、クリュ・ブルジョワ・エクセプショネルのシャトー・ベル・ヴュー Château Belle-Vue(約15ha)、クリュ・ブルジョワ のシャトー・ド・ジロンヴィル Château de Gironville(約5ha)、ボルドー・シュペリウールのシャトー・ボレイル Château Bolaire(約7ha)。ペンフォールドは短期間に80ha以上のボルドー・ワインを生産するグループとなり、ボルドーに大きな拠点を持つようになった。
今回のパートナーであるドゥルト Dourtheは、ボルドーに多数のワイナリーを所有するネゴシアン。ドゥルト・ヌメロ・アン(N°1)は世界中で見かける。日本とも馴染みが深く、1988年メルシャンが買収したシャトー・レイソン Château Reysson の経営を2001年から請負い、2014 年には同シャトーをメルシャンから買収して傘下に収めている。
ドゥルト Dourtheは、2007年にシャンパーニュのティエノ Thienotと合併。アルヴィティス ARVITISという巨大なグループを形成した。このアルヴィティス ARVITIS とペンフォールドPenfolds のコラボレーションは、10年前から行われている。シャンパーニュのティエノ Thienotと、3種のシャンパーニュ(2012年ミレジム)をリリース。「Thiénot × Penfolds」として日本でも販売されている。
国境を越えたブレンドワインの世界
ペンフォールド Penfolds はカリフォリニアにもワイナリーを所有し、BIN 98 クアンタム QUANTUM を生産している。カリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニオンをベースに、南オーストラリアのシラーズをブレンド。北半球と南半球のワインをブレンドしたワインだ。
異なった国のワインをブレンドすることは昔からある話で珍しいものではない。特にフランス、スペイン、イタリア、ドイツが陸続きで繋がっている欧州大陸においては、異なった国のブレンド・ワインは普通に見つけることができる。フランス最大のワイングループ、カステル CASTELのブランド、クラモワゼイ Cramoisay や リシュット Lichette は欧州各国のワインをブレンドしてつくられている(法的なカテゴリーは vin de la communauté européenne )。但し、これらは一般に流通している最低価格帯のワイン。高級ワインの世界ではない。「瓶詰め前」のワインを長距離移動させた場合、ワインの品質が下がることはあっても上がる話は技術的にはないからだ。酸素との接触や、温度変化を嫌う旧大陸のデリケートな高級ワインの世界では、これまで考えられなかった。一方、新大陸のペンフォールドは、自社の強壮なシラーズであれば、大陸を越えて輸送可能と考えているようだ。
ペンフォールド以外にも、国境を越えたワインはある。2020年ミレジムからはじまったエノップ Oenope。彼らは欧州ワインのボーダーレスを標榜し、赤白のワインを リリースしている。エノップ ルージュ Oenope Rouge は、スペイン産カベルネ・ソーヴィニオン60%、フランス産ガメイ20%、イタリア産バルベーラ20%のブレンド。エノップ ブラン Oenope Blancはフランス マコン産のシャルドネ34%、イタリア ロンバルディア産のシャルドネ33%、イタリア トレンティーノ・アルト・アディジェ産のリースリング33%のブレンドだ。参考価格は白赤共に12ユーロ。最低価格帯のワインではない。
まとめ
ここ30年ほど、世界のワイン業界では、フランス流のテロワールに近い高級ワイン造りが一つの潮流である。「その産地らしさとは何か」と。一連のペンフォールドの試みは、その逆の流れだ。
一連の国境を越えたブレンド・ワインは、「ワイナリー知名度を上げるためのマーケティング」「生産者間の技術交流」の色彩が強く、消費者側にどういうプラスがあるのかは、まだわからない。実はこの様なブレンドワインは、消費者側でもつくることが可能だ。今回のペンフォールド IIの場合、オーストラリアのペンフォールド カリムナ・ヴィンヤードのワインと、フランスのシャトー ベルグラーブのワインをそれぞれ購入し、自分で混ぜればいい。全く同じ品種構成にはできないが、この自前ブレンドの方が遥かに安いので、優劣は比較されて当然だろう。この点はペンフォールド側もわかっているだろうから、今後この試みがどうなっていくのか、大変興味深い。
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