フランス、ボルドーのオーメドック地区に新しい村名AOCをつくる動きが出ている。サン スラン ド カドルヌ Saint-Seurin-de-Cadourne 。ボルドーワイン好きでも、この村の名前をご存知ない方が多いだろう。サンテステフの北隣、ジロンド河に面したオーメドック地区最北端に位置。シャトー・ソシアンドマレのある村という説明の方が解りやすいかもしれない。
ボルドーワインの心臓部である左岸オーメドック地区には、6つの村名AOCがある。格付けされたスーパー・シャトーが集中するサンテステフ、ポイヤック、サンジュリアン、マルゴーの4つの村名AOCは世界的に有名。ムーリス、リストラック・メドックの2つがこれに続く。この6つの村名AOCは1930年代から1950年代につくられ、以降新しい村名AOCはオーメドックではつくられなかった。つまり60年以上このシステムに変更がなかった。そこに7番目の村名AOCになるべく名乗り出たのが サン・スーラン・ド・カドルヌである。
サン・スーラン・ド・カドルヌにAOCをつくるアイデアは古くからあるようだが、本格的に動き始めたのは2019年3月。新AOCに関して、INAOやODGといった地元の組織と折衝を重ねた。独立した村名AOCを一気に取得するのではなく、その１つ前のステップとして、 DGC (Dénomination Géographique Complémentaire)のカテゴリーで、サン・スーラン・ド・カドルヌを申請する方向で調整に入った。しかし、残念ながら2020年のコロナ禍で、作業は中断。今後これを再開していくようだ。
「サン スーラン ド カドルヌ？ 新しい村名AOCをつくる価値がある場所？」と考える方はいるだろう。多様なテロワールを持つこの村は、格付けされたスーパーシャトーが立ち並ぶサンテステフ、ポーイヤック、サンジュリアン、マルゴーと同様、ジロンド河に面している。ボルドー左岸では古くから、「偉大なテロワールは、ジロンド河を眺める」「偉大なワインは、ジロンド河の近くに育つ樹からできる」と言われる。小石が混じる水はけのよい土壌が偉大なワインを生むのがオーメドックの特長であり、サン・スーラン・ド・カドルヌはそういうテロワールを持っている。実際シャトー・ソシアンドマレやシャトー・シャルマイユがその好例である。
もちろん、テロワールだけでなく、マーケティング的な側面がこの動きのバックグラウンドにあることは確かだ。現在この村のシャトーはAOC オーメドックの北端にあるが、このAOCは非常に広い。南端から北端の サン・スーラン・ド・カドルヌまで50km近い距離があり、テロワールも様々。オーメドックの中でも優れたテロワールの村であることを示したいのだろう。また、この村のシャトーの大部分はクリュブルジョワに属するが、2003年クリュブルジョワ格付けの無効とその後の混乱で、クリュ・ブルジョワ格付けそのものの価値が落ちてしまい、他のシャトーと差別化する必要もある。
一連の動きを見ると、サン・スーラン・ド・カドルヌが独立したAOCになるまでには、少し時間がかかりそうだ。ただ、こういう新AOCの動きがあると、大規模に設備投資等を行って品質向上を行うワイナリーが出てくる。1855年格付けシャトーがないため現在は無名な村だが、テロワールのポテンシャルは高い。今後注意深く追跡していく必要があるだろう。
サン・スーラン・ド・カドルヌ村では、下記のシャトーが知られている。
●シャトー・ソシアンド・マレ Château Sociando-Mallet
クリュ・ブルジョワではない。その品質は格付け上位シャトーに匹敵することで知られる。この村内で最も有名なシャトー。
●シャトー・クフラン Château Coufran
2003年クリュブルジョワ・シュペリウール。その後クリュブルジョワから脱退。村内北端にあり、メルロー85％のワインは「オーメドックのポムロール」といわれる。
●シャトー・シャルマイユ Château Charmail
2003年クリュブルジョワ・シュペリウール。2020年最上格付けであるクリュブルジョワ・エクセプショネル 14シャトーの1つ。
●シャトー・ドヤック Château Doyac
2020年クリュブルジョワ・ シュペリウール。ビオディナミの認証取得
●シャトー・ポントワーズ・カバリュ Chateau Pontoise Cabarrus
2020年クリュブルジョワ・シュペリウール。プティ・ヴェルド種100％のワインをリリースしている。る。
●シャトー・レスタージュ・シモン Chateau Lestage Simon
2020年クリュブルジョワ・シュペリウール。
